(以下は、安田好弘弁護士が所属する港合同法律事務所が、一九九八年一二月七日付けで発表した「抗議声明」に、その後の経過をも踏まえて、一定の加筆修正を行ったものである。)
一 一二月六日、警視庁捜査二課は、強制執行妨害容疑により、当事務所の安田好弘弁護士を不当に逮捕すると共に、当事務所を二十数名の捜査員によって約五時間半にも亘り日曜日夜間の強制捜索を強行し、我々の強い抗議にもかかわらず、被疑事実に関係の無いことが、一見して明らかな記録をも探索した上、労働保険関係資料を始め、無関係の会計資料等を押収した。(直ちに準抗告した。)
その後東京地検・地裁は不当にも接見禁止付の勾留を行った後に、二五日に至り、地検は強制執行妨害罪により、安田弁護士を起訴、公判請求した。
二 本件については、顧問不動産会社の「賃料隠しの発案・指示」が云々されているが、そのような事実は全くない。
そもそも刑法学上、本罪の性質は、債務者の正当な経済活動との関係が、本来的に非常に複雑微妙で、明確な線引きは困難だとされている。(それゆえ、過去においては、本罪での立件は数多くはなかったのである。)
しかし、このことは逆に言えば、基準が極めて曖昧であるために、権力によって恣意的に犯罪として構成される危険性が大きいといえるのである。
今回の事態は、まさに本罪の有する本来的危険性が露呈されたものである。
三 しかも本件において、右の刑法上の問題に加えて、更に問題なのは、逮捕勾留についての刑事訴訟法上の根拠が全く無いにもかかわらず、一方的に強権が発動されたことである。これに対しては、多くの弁護士が疑問を呈し、強く非難している。
本件においては、安田弁護士がいわゆる悪徳弁護士であるかのごとき宣伝が。警視庁およびこれに無批判に追随するマスコミによってなされた。全く許し難いことに、元日弁連会長である中坊公平(株)住宅金融債権管理機構(いわゆる住管)社長までもが、同調した。
安田弁護士の真実の姿(救援センター関係者や死刑廃止運動関係者・安田弁護士の顧客などにはこのことは当然事ではあったけれども、この間、マスコミも悪徳弁護士報道が維持できなかったことや、むしろ同弁護士の立派なあり方や活動が紹介されるに至ったことによって、広く知られるところとなった。)とは全く正反対の、これらキャンペーンは心底怒りを覚えたが、権力はこうした悪意の攻撃を基礎とすることなくしえてゃ、本件を事件化することができなかったのである。
四 では、何故に現時点において、権力は警察・検察・裁判所一体となって、安田弁護士にたいして、このような攻撃をかけてきたのか。また本件の経過において赤裸々になってきたことは何か。
それは
1 経済活動への警察の権力的介入
2 これへの弁護士・弁護士会の統合
3 弁護士・弁護士会人権活動に対する掣肘
である。
五 このことを如実に示しているのが、本件についての住管の告発の経過である。
すなわち住管は、債務者会社側からの弁済申出を、「まずは刑事責任が先決」として受け付けようとはせず、遮二無二刑事事件化を図り、会社幹部の告発をなした。(そもそも5年も以前の住管発足前の事であったにもかかわらず、である。)
警察は形の上ではこれを受けるようにして、会社幹部について強制捜査を開始した。
そして、この捜査の過程で、取調検事自らが弁護士の解任強制をなすという違法捜査まで行って、これを基礎として、安田弁護士への追及の手筈を整えた。
ところで先述したように強制執行妨害罪には問題が多く、住管発足前には摘発事例も少なかった。発足後住管は警察と密接な関係をとりつつ刑事事件化を進めて来たが、しかし非常に悪質とされた件でも弁護士の逮捕までは行われなかった。事実としては住管も安田告発までは考えなかったと弁明されている。しかしながら、「安田だからこそ。」との、強い警視庁の意向(警視庁記者クラブからの情報では、公安部も強い意向を示したという)の前に、唯々としてこれに従い、逮捕後に告発するという前代未聞の捜査協力を行った。(住管の監督機関である預金保険機構からの、「告発を拒否するならば、今後警察の協力をさせない」との恫喝に屈した結果と、住管幹部自ら語っている。
ちなみに、預金保険機構は株式会社である住管の全額出資者であり、監督機関とされている機関であるが、その役員は全員が検事と判事で構成されている。
中坊弁護士は「司法のパブリック性」ということをしきりに強調しているが、その主張は根底において、「司法」の概念の下に、弁護士制度の意義・機能をも融解同化させようとする傾向性が顕著であると指摘批判されてきた。
今回の事態。また現時の住管のそもそものありかたは、まさにこのような考え方の必然的帰結であったと言える。
例えば、黒田常務は「捜査機関との連携」を住管活動の特徴として挙げた上で、「刑事事件相当案件を探し出すのも弁護士の仕事である」と、公言している。)
六 全く残念なことに、このような事態であるにもかかわらず、弁護士会は抗議一つなすことなく、事態を客観主義的に傍観している傾向がある。これは直接には、中坊公平社長・尾崎純理専務取締役・黒田純吉常務取締役を始めとして、多くの弁護士が住管に就職しないし関係している事の結果である。(しかしその活動の内実は前述のとおりであって、むしろ権力による弁護士・弁護士会の構造的統合が完成しつつあり、警察力の強大化に自ら手を貸しているばかりか、主観的には〈パブリック〉の旗の下に、人権派弁護士の売り渡しにも手を染める構造を形成してしまっているのである。)
七 このような構図は、まさにいわゆる法曹養成制度改変問題、および組織的犯罪対策法ないしその立法の現状等にも顕著に現れてきているところである。(政府自民党は、破防法問題における日弁連の活動に対して、公然とこれを非難する一方、法曹養成について、「企業法務従事者の大量養成およびその競争」を掲げて、司法修習期間の短縮、判事・検事と弁護士の分離養成等の制度改悪を導入しようとしてきている。
また、組織的犯罪対策法の内容についいては、ここで改めて述べるまでもない。
問題は、日弁連が「組織的犯罪」について別個の刑事法制が新設されることについては根底的には反対せず、反対の大衆運動も組織しようとはせず、盗聴問題以外については、むしろ当初より妥協を予定し、政府の政策的パートナーたらんことを旨としてきていることである。
ちなみに、それかあらぬか、安田弁護士の保釈請求却下に対する凖抗告決定においては、裁判所は「本件は組織的・・犯行」と強調している。)
このような構造に於て、人権派弁護士として著名であり、麻原公判の主任弁護人・死刑廃止運動の代表的存在であって、しかも更には、天皇決戦の最中である九〇年の設立以降、国鉄・三里塚・全逓等々、多くの労働公安事件を担い、またこの間,破防法・組織的犯罪対策法粉砕闘争の弁護士戦線に於る主要な担い手の一つであった、港合同法律事務所の中心的存在である安田弁護士が、たまたま会社顧問の名が上がったことを絶好の素材として、権力はこれを標的としたのであった。
八 しかしこの間、弁護士会館で開催された一二月一六日の熱気溢れる五〇〇人の緊急集会を始めとして、全国の心ある人達からの絶大な連帯支援の声が、寄せられてきている。
本件弾圧の構造が右のとおりである以上、この打破は、こうした諸氏との団結を更に打ち固め進んで行くこと以外にありえないと、事務所一同確信している。
救援読者の皆様の、絶大な御支援を御願いする次第である。
一九九九年一月四日
弁護士 大口昭彦
弁護士 遠藤憲一