|
護憲か改憲か,二者択一に掬えない開かれた論議を呼びかける 憲法をめぐる根底的な提起
書評:堀内哲 編著『天皇条項の削除を!』
2010年2月
前 田 年 昭
思想誌『悍』編集人
『図書新聞』第2952号 2010年2月6日付掲載 |
|
|
「天皇の公的行為」「天皇の政治利用」をめぐる問題が,中国の習近平国家副主席との会見設定で今,にわかに論議を呼んでいる。天皇の政治利用は是か非か,天皇を政治的に利用しているのはだれか。しかし待て,問題の本質はそんなところにはない。「一ヶ月ルール」などの手続き論に問題をすりかえるものこそ,本質を隠蔽するものではないのか。
本書は,この根底的(ラジカル)な問いを追究する時宜を得た論集であり,開かれた論議のための絶好の書である。格差社会や政治家の世襲を批判する人たちは少なくないにもかかわらず,なぜ天皇制という「格差」や「世襲」に反対しないのか。
巻頭の編者・堀内哲氏による「天皇条項削除と現代「共和制」論」は総括的な問題提起である。ここで堀内氏は,日本国憲法が「朕」から始まっている事実に注意を喚起し,「前文の手前・憲法の冒頭になぜ「上諭」がくるのか? なぜ戦争放棄の9条の前に1条から8条「天皇条項」があるのか?」と問うている。戦後の護憲派は上諭と御名御璽を形式であって法的実質を持たないとして無視した。しかし内容は形式を通じて本質を実現する。形式に貫かれているものにこそ憲法の本質がある。
果たして代表的護憲学者・宮沢俊義の「八月革命説」は歴史的事実に合致しているのか,否である。憲法改正を指令すれど決して停止も廃止も指令しなかったGHQによって,大日本帝国憲法は一九四五年八月一五日の「終戦」をはさんで四七年五月三日まで,帝国議会もまた同年三月三一日まで,それぞれ存在し続けさせられたからである。
「「上諭」「御名御璽」は,「大日本帝国憲法」と「日本国憲法」という,性格の異なる二つの憲法が,天皇裕仁という同一人物によって継承されたことを示す確かな「結び目」」と指摘する編者は,「昭和天皇は,アジア太平洋戦争の「戦争責任」追及に対し,平和主義や基本的人権,主権在民を盛り込んだ日本国憲法を制定し,日本国憲法成立の「責任者」として署名・押印することで,憲法に自ら入り込み,いわば「楯」として憲法を内側から逆利用し,追及の矛先を巧みに回避した(上諭・御名御璽)。」と日本国憲法誕生の本質を断じているが,評者は完全に同意する。
評者からは,無条件降伏に反対して徹底抗戦を呼びかけた厚木航空隊の小園安名に対して,党与抗命罪首魁による無期禁固刑と官籍剥奪を言い渡した軍法会議が,何と一九四五年一〇月に行われたという事実を指摘しておきたい。戦後民主主義とは,戦後保守と戦後革新とによる共同支配を覆い隠すイチジクの葉であり,転向によって生きながらえた天皇を「国民統合の象徴」とする「総意」なるものは戦後支配権力の意思であったとしても,決して民衆の「総意」などではない。
矛盾を抱える日本国憲法に論拠しているかぎり,現在の「反貧困」運動は,政府の経済政策の失敗や企業の経営責任を問うロジックを構築しえない。それだけではない。「国際社会における名誉ある地位」を求める国益論に収束させられてしまうだろう。そして,再びみたびアジア民衆に対する侵略と差別の尖兵とさせられてしまうだろう。これは決して杞憂ではない。
天皇評価を論議すれば護憲運動が分裂するという意見は,目先の勝敗に目を奪われたプラグマチズムである。編者は的確に「論議もしていないのに「天皇条項の話をすれば分裂する」「大衆から乖離してしまう」というのは観念的に怯えているだけだ。これこそが人々の連帯を分断する天皇制が最大に威力を発揮する政治局面である」と指摘しているが,評者は心から賛成である。
編者が提起しているとおり,「本当に格差社会や貧困,死刑,政治家の世襲をやめさせたかったら,まずは憲法第1章を問うことから始まる」。
昨年八月の衆院選で民主党が圧勝した。しかし,これで「改憲が遠のいた」などと判断することはとうていできない。民主党自体が「改憲勢力」であり,自民党もなお侮れない勢力を保っているからである。
こうしたとき,真に改憲を阻止するのは,これまでのような九条をめぐる解釈論議ではなく,条文と内容をめぐる開かれた論議だとの呼びかけは,しごく真っ当なものである。前記の堀内論文のほか本書におさめられているのは,第一部「憲法篇・共和制篇」は,彦坂諦,山口正紀,纐纈厚,宮崎省吾,西尾洋祐,柏木信泰,第二部「地域から格差社会と天皇制を問う」は,井上森,小野俊彦,八木航,岡嵜啓子,亀田博,それぞれの各氏による論考であり,巻末には「天皇条項の削除を!共同アピールのよびかけ 憲法改悪反対とともに」が掲げられている。
開かれた論議のためのたたき台として,私は本書を広く薦める。
|
|
(おわり)
|
Jump to
|
[Top Page] [BACK]
|
|
ご意見をお待ちしております。
|
電子メールにてお寄せください。
前田年昭 MAEDA Toshiaki
[E-mail] t-mae@@linelabo.com
|
|
|