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句読点研究会ニュース
第3号
2001年8月18日発行
発行=句読点研究会
世話人=郡淳一郎、田中栞、前田年昭
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近代国語辞書に見る句読点
第3回例会(7月22日,涵徳亭)報告
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第3回例会は7月22日,小石川後楽園・涵徳亭において「近代国語辞書に見る句読点」というテーマで境田稔信さん(校正者、辞書研究家)からの報告をうけ,論議した。
以下は講師からの「まとめ」および参加者の感想と意見である。
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第3回「近代国語辞書に見る句読点」のまとめ
境田稔信
(第3回例会報告者) |
近代の国語辞書は,大槻文彦の『言海』(明治22〜24)刊行以前のものを見ると,内容も形式も現在のようなものではない。物集高見の『日本小辞典』(明治11)は名詞以外の言葉を収録したもので,文末に句点はなく,区切りに句点(。)を用いた。その後の『ことばのはやし』(明治21)で名詞を補い,古語以外の普通語も加えられ,句点と読点を使っている。近藤真琴の『ことばのその』(明治18)も内容は古語辞典であって,文末に句点はなく,区切りに読点(、)を用いた。両者とも書名が表すとおり「かなのくわい」の方針に準じた仮名表記なので,読みやすいように分かち書きをして,行末には半角のダブルダーシを用いている。また,英語学者の高橋五郎が作った横組の『漢英対照いろは辞典』(明治20〜21)と縦組の『和漢雅俗いろは辞典』(明治21〜22)は,英語や類語を載せた実用的な内容ではあるが,言葉の解釈は簡単なものでしかない。前者ではコンマ(,),ピリオド(.),セミコロン(;)を用いるが,コンマは並列した単語の区切り,セミコロンは類語との区切り,ピリオドは最後に添えた英訳に付けてある。後者では,コンマが読点(、)となり,セミコロンが句点(。)となって,文末には何も使われていない。
『言海』での約物使用は現在に近い印象だが,カギ括弧が続く場合は「○」○」というふうに二つめ以降のオコシを省略している点が異なる。山田美妙の『日本大辞書』(明治25〜26)は読点(、)と句点(。)の中間として白点を使っているほか,『言海』に増して記号類を多用し,かえって煩わしいぐらいだ。そのせいか,偶数頁の版面ノド側に見出し語の種類などを示した記号一覧を入れる工夫が施された。『日本大辞書』と同じように◎●△を使ったものは大和田建樹の『日本大辞典』(明治29)がある。しかし,『日本大辞書』を元にして作られた三省堂の『帝国大辞典』(明治29)や『日本新辞林』(明治30)では独自色が薄められ,最初に墨付きパーレンや二重パーレンを使った『辞林』(明治40)以降,大きな変化は見られない。物集高見の『日本大辞林』(明治27)は『ことばのはやし』とほとんど同じシンプルなものだし,落合直文の『ことばの泉』(明治31〜32)での約物の種類も少なく,かえって二重カギが目立っている。美妙の没後に出版された『大辞典』(明治45)も『日本大辞書』より少ない約物類だった。
以上から大まかに言うと,近代国語辞書においては明治20年頃まで句読点の使い方が確立されず,20年代で記号類が大幅に増える一方,最小限にとどめているものもあり,徐々に淘汰・定着・増加が行われたようである。
*正誤訂正(表2「使用約物一覧」)
(1)『日本小辞典』の読点(、)は「×」
(1)『日本小辞典』の句点(。)は「○」
(19)『大日本国語辞典』の中黒(・)は「○」
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第3回例会に参加して
居郷英司
(校正者) |
「近代国語辞書に見る句読点」という境田稔信氏の報告は,日ごろ目にする機会の少ない貴重な辞書類を拝見することができ,大変に有意義でした。また,辞書に使われている約物類の調査も他に例を見ないものであり,原本から採取された図録も資料として興味深いものがありました。
とくに,山田美妙『日本大辞書』にしか使用されていない「シロゴマ」は,句点と読点の間の区切りとしての機能を持たせたもので,欧文のコロンあるいはセミコロンに対応させた約物であろうと推測されます。こうした句読点の種類や用法と,「言文一致」との関わりなど,研究がすでに行われているのかもしれませんが,ぜひ知りたいところです。この「シロゴマ」は,なぜ日本語の句読点として定着しなかったのでしょう。
辞書に使われている約物は,情報を限られた紙面に盛り込むために,独自の意味が付与され,その意味によって区切るという特殊な使われ方が多いようです。そのため,辞書には約物の意味を解説した凡例が付いているのでしょう。
今回の例会のあと,これから句読点を研究するうえでは,通常の文章中の約物が,どのように使われ定着してきたかを,調査・分析する必要があるように感じました。そのさい,明治時代の活版から始めるのではなく,それ以前の木版から見ていく方が,より明確になるように思われます。
「句読点」という,文章表記のうえで欠かせないが,あまり研究対象とされてこなかった分野だけに,続けていくのは大変だと思いますが,今後の活動に期待しております。
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句読点あれこれ
家辺勝文
(日仏会館フランス事務所) |
句読点研究会の第3回例会(2001年7月22日,小石川後楽園「涵徳亭」にて開催)に参加させていただいた。この日は「近代国語辞書に見る句読点」というテーマで境田稔信氏による報告があり,充実した資料をもとに参会者からも活発な発言があった。以下,当日の話題に引き寄せながら,句読点研究に役立ちそうないくつかのアイデアをたたき台として書き出してみたい。
■辞書から見た句読法とその研究素材としての可能性
テキストは文字の集合だけで成り立っているわけではなく,そこでは文字の並べ方,さらには文字を区切ったり結びつけたりする約物と呼ばれる記号類が重要な役割を果たしている。そのことは,例えば句読点や括弧類をすべて省いてしまったり,文字の並べ方を微妙に変えてしまうような実験をしてみればすぐにわかる。またそれらの要素は編集過程で手直しの対象になることも多く,テキストの成り立ちを動的に見ていく上で重要な手がかりを提供する。ところが,そのように文字表記を支えている要素のそれぞれが厳密にどのような役割を果たしているのかと問われれば,必ずしも簡単には答えられないだろう。
しかし,辞書の場合は少し事情が異なる。境田氏の近代辞書から採った資料を通読して何よりも気がつくのは,ここでは区切り用の記号の種類が凡例で意識的に明記され,その用法も一つの辞書の中で整合性をもつように定義されているということである。
例えば高橋五郎『和漢雅俗いろは辞典』(1888〜89)の「凡例」には次のような記述がある(原文は縦書き,漢字は常用漢字表の字体に直した)[配付資料の03-17ページ]。
第五各語ヲ区画スルニ黒点即チ(、)ヲ以テシ意味ノ少ク異ナルニハ圏点即チ(。)ヲ以テシ又註解ニ属スル者ハ括弧ヲ以テス例ヘバ
ゐなか、田舎、鄙、ひな(都会を離れたる地方をいふ)。村落、郷村、村荘、さと ノ如シ
(原文の例の組み方では「。」が行末に来ているため,「村落」以下は次行に送られている。)
これは同じ高橋五郎の『漢英対照いろは辞典』(1887〜88)[配付資料03-15ページ]と比較してみると,横書きにおける「コンマ」(,)と「セミコロン」(;)の使い分けを縦書きで(、)と(。)の使い分けに置き換えたものだということがわかる。現在では通常の文章で慣用的に使われている「、」と「。」も,別の時代の文脈では必ずしも慣用として確立しておらず,語釈の中の区切り用の記号としては定義によって用法を明確化して使う必要があり,またそのような使い方の余地があったということでもあろう。
ただし,辞書の場合は限られたスペースの中に情報を見やすく詰め込む必要があり,自ずと同時代のその他のジャンルの文章での句読法とは一線を画すことが予想される。一般の文章でのどのような慣用(あるいは慣用の不在)を背景にして,一つの辞書で区切り用の記号の種類が選ばれ,用法が定義されたのだろうか。辞書における句読法は,明文化されにくい同時代の慣用を探る一つの手がかりになるかもしれない。
■比較研究と句読記号類の同一性の問題
句読点を見ていくときに,比較研究が一つの有力な手段になることはまちがいない。一つの文脈だけからは鮮明に見えてこなかったものを,ジャンルまたは文体の違い,書き手の個人差,時代の違い,編集過程の違い,言語表記体系の違い等々を通じて,差異と同一性の検証の中で浮き彫りにすることになる。
そこで,句読点の記号としての同一性(アイデンティティー)をどうとらえるかについて少し整理しておいた方がよいと思う。句読点の種類を見ていく上で,記号(の形態)としての同一性を,その用法の同一性と分けて考えることが重要になるのではないか。句読点は文字の並びと組み合わされてはじめて用法が決まるものである。それだからこそ,逆に明治時代の辞書という特定のジャンルに使われた句読点を,形態に着目しつつ,記号の種類としては同時代の別のジャンルや,現在慣用的に使われているものと「同じ」あるいは「違う」と見なしながら,その名称や用法の異同を議論することができるのだろう。
一つの文字体系が異なる言語の表記に使われるのとはまた別の形で,句読点は異なる文字体系の間で借用され使われている。例えば,日本語の横書き表記で漢字仮名まじり文でも「,」や「.」を使うのは,和欧混植で欧文にうつ句読点とそろえたいという意識があるからだが,その場合,これらの記号は欧文における「,」「.」と「同じ」と意識されるからこそ,そのように使えるのである。しかし,日本語の文章の区切りとしての「,」「.」の使い方は,欧文のそれと必ずしも同じではない。むしろ,概ね縦書きの和文における「、」と「。」の使い分けを,横書きでは「,」と「.」に対応させているだけと考えた方が当たっている。
■人間が文字を含めた記号をどう使うかという問題にもどってくる
このように,句読点は一つの表記体系から別の表記体系へと渡って使い回される記号という側面ももっている。特定の文脈に着目すれば,文字表記を支えるその他の様々な形式との組み合わせの中で,一つの句読点がどのように使われているかという問題になる。それはまた,それぞれの文脈で文字がどのように扱われているかを再認識することにもつながるだろう。このような複眼的な視点で句読点を見ていくことにより,人間が文字を含めた様々な記号を書き言葉の中でどのように使いこなしているか,より的確に理解できるようになるのではないだろうか。
句読点は慣用的なルールの中にあるだけではなく,表現のためのリソースであり,テキスト研究の上でも確かな鉱脈であると思う。
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