句読点研究会のよびかけ




2001年5月

よびかけ人
郡淳一郎 / 前田年昭

句読点・約物・符号・記号(日本語のテクストにおける漢字・仮名・洋数字・ローマ字以外の要素)とその用法について,共に考える研究会への参加をよびかけます。

 英語では文字が組まれた姿,たとえばパンクチュエーションの用法や字体の区別を「正読」の手がかりにするというアプローチ(村上陽介[2000])があり,他方,日本語では句点と読点の相対的価値,すなわち休止の時間差の研究すらなされていない,という指摘(大類雅敏[1979])があります。また,縦組み/横組みという二つの組み方向が併存する現在の和文組版において,区切り符号・繰り返し符号をどのように使い分けるかは,和洋の数字の使い分けとともに最もゆれが激しく,編集者を悩ませています。「日本語の文字と組版を考える会」(1996-)の活動のなかで,前田年昭は破綻しない組版ルールは何の役にも立たないと提言[1998]しましたが,それは決してルール不要論ではなく,旧来の規範は旧い技術の制約をルール化したものにすぎない,いま現に私たちが使用している日本語の実態と論理にしっかりと立ち戻りたいということでした。

 パーソナル・コンピュータとインターネットの普及によって,言葉を読み,考え,引用し,書くこと,編集し,組版し,印刷すること,そしてもう一度読むことは,データによって一直線に繋がり,限りなく近接したステージとなりました。テクストの入力と出力とは,もはや切れ目のない一つの事態の裏表に過ぎなくなってしまったようにみえます。その一連の事態のなかで,ひとつながりの文字列のなかにステージごとに食い込んで,それを読むことに向けて整序してゆく句読点・約物・符号・記号(その中には,引用や出典を指示する多種多様な引用符・省略記号や,組版において可視化する各種の「スペース」「改行」も含まれます)こそが,日本語の組版の,表記の,ひいては「テクスト」のカナメ,肝なのではないか,と私たちは考えます。職業的校正者による対面校正以外に音読されず,部首も画数もなく配列という秩序付けすら及ばぬ句読点・約物・符号・記号こそが,テクストをテクストたらしめているのではないか。

 和文組版における句読点・約物・符号・記号の歴史は,漢文を日本語として訓読するための訓点,声明・平曲・謡曲の譜本や浄瑠璃の台本を朗唱するためのガイド符号を前史とします。江戸小説の版本を経由して,本格的な句読法確立の試みは,欧文タイポグラフィの移植による近代活版印刷技術と,言文一致をかかげた近代日本語表記との模索期に始まります。山本正秀は《旧来の,も。もないのっぺらぼうの表記法をやめて,欧文の各種の文章符号を移入し,句読法を確立したことは,近代の文章をどんなに読みやすくわかりやすいものにし,合理的で細叙に堪えるものにしたか》と指摘しています[1965:p.8]。以降,60年代末の批評言語や80年代の広告コピーにおける符号・記号の多用,近年の欧字混植の急増やインターネット,電子メールにおけるフェイスマークの氾濫など,さまざまな局面と段階を経て,現在に至っています。

 フリードリヒ・キットラーは《「足す」(und)という表現のかわりに「+」記号を使うようになって,何がどう変わったか》と問題提起しています[1996〔1999邦訳:p.90〕]。句読点・約物・符号・記号こそ,音声言語と文字言語をつなぎ,テクストとテクストならざるものを弁別し,読むこと/書くこと,文字/図像,行為/表象の境界にあって,ことばの歴史と現在を照らし出しているのではないでしょうか。

 以上のような仮説的問題意識から,句読点・約物・符号・記号を考えてみたいと思います。
  • 最短1年を目途として,月1回,報告と討議の例会を行なう。会費は1回2000円とする。
  • 並行して,文献目録・用例集・年表を作成したい。
  • 報告と討議をもとに,論文集を分担執筆・編集・刊行したい。
引用文献
  • 大類雅敏 1979 『句読点活用辞典』栄光出版社
  • Kittler, Friedrich; Banz,Stefan 1996 Platz der Luftbrucke:ein Gresprach,Autoren & Oktagon,Koln.〔1999 前田良三・原克訳『キットラー 対話』三元社〕
  • 前田年昭 1999 「破綻しない組版ルールは役に立たない能書きだ」http://www.linelabo.com/kumi9904.htm
  • 村上陽介 2000 『英語正読マニュアル』研究社
  • 山本正秀 1965 『近代文体発生の史的研究』岩波書店
(4月吉日初版,5月吉日補訂)


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句読点研究会連絡係・前田年昭
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