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青春からの旅立ち『子猫をお願い』
2004年8月
前 田 年 昭
『KOREA TODAY』2004年8月号 掲載
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クァク・キョンテク監督の『友へ チング』(二〇〇一)は幼なじみの四人の男の子が時代と運命に翻弄されながら別々の道を歩んでいく壮絶な人間ドラマだったが,これは女の子の夢と挫折を描いた傑作。監督は短編映画で高い評価を受け,『二人の夜』がぴあフィルムフェスティバルで日本に紹介された女性監督,チョン・ジェウン〔本誌五月号の紹介記事参照〕。長編映画デビュー作の本作で,十九歳から二十歳になろうとする彼女たちの微妙な心情をみずみずしい感性で描いた。
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〔ストーリー〕
過ぎ去った日々は戻らない |
仁川(インチョン)の女子商業高校時代の仲良し娘五人組は,今年で二十歳になる。証券会社のOLとしてバリバリ働き,オシャレが何よりの関心事というヘジュ(イ・ヨウォン)は,いちばん仲良しだったジヨン(オク・ジヨン)と最近うまくいってない。幼いころ両親に捨てられたジヨンは,好きで描きつづけているデザイン画を生かす仕事はなく,祖父母とバラック街に住み,友人からお金を借りて生活するありさま。求職に四苦八苦するなか,上昇志向が強いヘジュの言動が,いちいち気にさわるのだ。
こんな二人の間で五人の友情を守っていこうとするのは,心優しくおっとりした性格のテヒ(ペ・ドゥナ)。彼女は家業の手伝いをしながら小児マヒの青年詩人の家に通い,彼の口述する詩をタイプするというボランティアをしている。双子のピリュ(イ・ウンシル)とオンジョ(イ・ウンジュ)は,仁川のチャイナ・タウンに暮らし,アクセサリーの露店を出して生計を立てている。
ヘジュが二十歳になる誕生日,それぞれにプレゼントを持ち寄るが,お金がないジヨンは拾った子猫を持ってくる。ヘジュはいったんは受け取るが,ほどなくジヨンを呼び出して,子猫をつき返してしまう。二人の亀裂を埋めようとテヒが奔走していた矢先,さらなる悲劇がジヨンを襲う……。
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〔見どころ〕
青春が美しいなどとは誰にも言わせまい |
社会に出れば否応無く現実と向き合わされる。過去は戻らない。誰もが身に覚えのある友情の終わりを,真っ正面からとらえている。五人の間をたらいまわしにされる子猫が,かつての青春時代や友情が持てあまされている様子と重なり切ない。
公開当初から日本でも著名な映画評論家らが“青春映画の傑作”と高く評価した。だが,ポールニザンの「青春が美しいなどとは誰にも言わせまい」という言葉を引くまでもなく,評論家たちには言われたくはないよ,というのが実感である。青春は代理も代弁もできないからだ。青春映画の傑作は,青少年が実感をともなって“生きて”いる社会から生まれる。青春がほとんど“窒息されられて”いる現在の日本ではどうだろうか。そういう意味で,韓国の今の青少年のいきいきした現状の反映とも見ることができるのではないだろうか。
また,携帯電話やタイプライターで入力された文字が,風景の中に流れ込む演出は,文字言語の力を示して斬新である(これだけでも一見の価値あり)。タイトルバックもとてもオシャレだ。文字を動かしてカッコよく見せる技術をモーション・タイポグラフィというが,この映画のそれは東アジアの映画における最高の水準であり,この斬新な映像感覚は韓国のみならずヨーロッパでも評価されたという。
監督の文字へのこだわりは作品のなかでは言葉と沈黙とをあからさまにする。ジヨンの沈黙は,大人たちへの,そして自身への,言いようのない苛立ちであり,抗議なのだ。テヒの「何か言って…」という言葉は,つながりあうための言葉を取り戻そうという呼びかけとしてあったのだ。テヒはジヨンを誘っていきなり旅にでようとするが,若者たちは未来を見つけることができるだろうか。
これまで男性主演の映画が主流だった韓国で,等身大の女性をモチーフにした点からも新世代の韓国映画といえよう。
〔キャスト〕
テヒ:ペ・ドゥナ
ヘジュ:イ・ヨウォン
ジヨン:オク・ジヨン
〔スタッフ〕
監督・脚本:チョン・ジェウン
撮影:チェ・ヨンファン
音楽:M&F
2001年/配給ポニーキャニオン×オフィス・エイト/112分
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| (おわり)
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