むかし豪傑というものがいた
彼は書物をよみ
嘘をつかず
みなりを気にせず
わざをみがくために飯を食わなかつた
うしろ指をさされると腹を切つた
恥かしい心が生じると腹を切つた
かいしやくは友達にしてもらつた
彼は銭をためるかわりにためなかつた
つらいというかわりに敵を殺した
恩を感じると胸のなかにたたんでおいて
あとでその人のために敵を殺した
いくらでも殺した
それからおのれも死んだ
生きのびたものはみな白髪になつた
白髪はまつ白であつた
しわがふかく眉毛がながく
そして声がまだ遠くまで聞えた
彼は心を鍛えるために自分の心臓をふいごにした
そして種族の重いひき臼をしずかにまわした
重いひき臼をしずかにまわし
そしてやがて死んだ
そして人は 死んだ豪傑を 天の星から見わけることができなかつた
| 1978岩波文庫版 | [Top Page] [BACK] |