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論議を呼ぶフォーマットの「著作権」
『知恵蔵』裁判が問いかけること
1999年7月
郡 淳 一 郎
『日経デジタルデザイン』99 summer(日経BP社、1999年8月20日発行)「NEWS & TOPICS」欄に掲載されたものを許諾を得て転載
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書籍の本文フォーマット・デザインに著作権は認められるだろうか? 認められるとすれば、それは誰の権利なのだろうか? 認められないとすれば、本文デザインにはどのような法的権利も存在しないのだろうか? 「レイアウト・フォーマット」の著作物性の有無を問う日本で初めての訴訟の控訴審が、一審提訴から4年余りを経て、いよいよ大詰めを迎えようとしている。
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拒否された奥付のクレジット表示
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問題になっているのは、朝日新聞社の年刊用語事典『知恵蔵』。B5変型判約1500ページにさまざまなレベルのテクストと図版が満載され、しかもそれが毎年大幅に改訂されるという、1冊の書物としては最大規模かつ、複雑な情報を整然とまとめ上げるデザイン的統一性が必要不可欠な書物と言ってよいだろう。グラフィックデザイナーの鈴木一誌氏は、「10年かけて育てたい」との依頼を受けて、この『知恵蔵』の創刊1990年版から1993年版まで、4冊の表紙・本文を含む全ページのブックデザインを担当した。ところが93年版刊行直後の同年2月、編集長の二代目から三代目への交代とともに、新編集長は『知恵蔵』のリニューアルとデザイナーの変更を通知、その際、鈴木氏は「創刊以来のレイアウト・フォーマットを流用した上で、自由に変更させてほしい」と要請された。
たしかに、凸版印刷のCTSに組版情報と一体になって保存されている前年度の記事の大部分を流用しつつ、フォーマットに即して原稿の分量や配置を検討しながら毎年の新語を増補する『知恵蔵』にとって、フォーマットを即座に変更することは不可能だったに違いない。鈴木氏は94年版に限って了承、「ただし奥付に『本文基本デザイン鈴木一誌』と著作権表示するように」と回答したところ、フォーマット・デザインに著作権は認められないと朝日新聞社がこれを拒否、鈴木氏も交渉を打ち切った。その後94年版・95年版の2冊が鈴木氏のクレジットも支払いもないまま従来のフォーマットを使用して刊行されるに至って、鈴木氏は2年分のデザイン料560万円と精神的損害賠償500万円を朝日新聞社に請求する訴えを東京地方裁判所に提起、これが95年3月のことだった。
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ブックデザインの問題点が浮き彫りに
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原告と被告の主張は真っ向から対立し、現在のブックデザインをめぐる問題点を浮き彫りにすることとなった。『知恵蔵』「個別」の「レイアウト・フォーマット」に編集著作権の準共有を主張する鈴木氏と、「一般」的に「割付用紙」に著作権等の知的財産権は発生しないとする朝日側。情報の内容と「具体的」な「かたち」は不即不離だとする鈴木氏に対して、著作権法に言う「著作物」とはそもそも「抽象的」なものだとする朝日側。また鈴木氏は、4年間、実作業の漸減にも拘わらず300万円づつ支払われていたデザイン料は、フォーマットの「使用料」を含んでいたはずだと主張するが、朝日側はそれは「買い切り」だったとはねつける。平行線をたどる議論は、それぞれの用語にも如実に現れているように、コンピュータを使用した「先割り・プログラミングによる流し込み」と、旧来の「後割り・手作業による割付け」という新旧デザイン観の対立でもあるように思われた。
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【「組織」に立ち向かう「個人」】
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1998年5月、東京地方裁判所は「本件では、原告の編集著作権は成立しない」として鈴木氏の訴えを棄却、翌月鈴木氏は東京高等裁判所に控訴した。これにともなって、鈴木氏が『知恵蔵』降板後も継続していた『朝日年鑑』『Japan Almanac』など朝日新聞社との仕事はすべて打ち切られた。この裁判は、デザイナーという「個人」が、出版社という「組織」を相手どり対等の立場を主張して行なう、著作権法の解釈に対する異議申し立てでもあることが、改めて明らかになったのだ。
両者の弁論はさらに、あくまで「具体性」を拠り所とする「デザイン」と、本質的に「抽象性」を指向する「テクスト」という根源的な対立をも暗示しつつ、7月2日の次回裁判を最後に結審が予想されている。
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[後記]
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7月2日の裁判で、「レイアウト・フォーマット保護の必要性」および「契約の存在」を改めて主張する控訴人準備書面(六)と、これに対し「明示の契約」は「不存在」であり「『先割』と使用料支払」は「関係ない」と反論する被控訴人準備書面(四)を受けて、裁判長は双方に再度最終準備書面の提出を求めた。これが最終手続となる次回裁判は、9月2日(木曜日)午前10時より、東京高等裁判所8階815法廷で行なわれる。
なお、上記のテクストの本Webへの再録にあたり、初出誌校正時にスペースの都合で割愛された編集部による中見出し(【 】部)を復元した。(筆者)
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[資料]
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筆者は上掲記事の執筆にあたって、被控訴人(一審被告)・朝日新聞社の訴訟代理人弁護士である内藤篤さんに取材を申し入れ、書面で回答を戴くことができた。以下に資料として、Faxで取り交わした質問と回答の全文を採録する 。
取材にご協力くださり、回答の本webへの掲載をご許可くださった内藤篤弁護士に感謝いたします。(筆者)
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■内藤篤弁護士への質問 (6月9日)
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- 一審・二審を通じての最大の争点は、「レイアウト・フォーマット」の著作物性の有無、と考えてよろしいでしょうか?
- 「レイアウト・フォーマット」に関しては、朝日新聞社にも著作権が存在しないとの主張と理解してよろしいでしょうか?
- 「レイアウト・フォーマット」には、どのような権利も認められないとのお考えでしょうか?
- この裁判には、どのような意義があるとお考えでしょうか?
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■内藤篤弁護士からの回答 (6月10日)
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まず、ご質問中にあり、裁判で問題となっております「レイアウト・フォーマット」の意味ですが、出版物における各ページの文字組み、1行の字数、行数、行間、段間等を定めたものであり、この理解を前提に、ご質問にお答え申し上げます。なお、雑誌に書かれるに際しましては、「割付用紙」と呼んでいただいたほうが、一般読者にとって、イメージしやすいかと存じます。
- ご質問のとおりです。
- そもそも本件「レイアウト・フォーマット」は著作物ではないので、当然、朝日新聞社も著作権を持ち得ないとの立場です。
- 著作権等の知的財産権は発生しないと考えております。
- 朝日新聞社側としては、著作権法の一般的解釈に基づく当然の主張をしておりますので、特段意義があるとは考えておりません。
なお、お調べ済みのこととは存じますが、原審の判決におきましては、ご質問の点も含め、朝日新聞社側の主張が、ほぼ全面的に認められておりますので、併せてご確認下さい。
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(おわり)
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