12月31日 すが秀実「(連載・時評「タイムスリップの断崖で」第4回)「デリダが亡くなった時、宮本顕治について考える」」〔『en-taxi』第8号、2004年12月、扶桑社、掲載〕。【「ポストモダンの終焉」という言説は、日本にあっては一種の歴史回帰を伴ってあらわれており、文学的には小林秀雄への――時として安易な――回帰をもたらしていると同時に、特殊左派陣営にあっては、中野重治に対する無内容な礼賛を呼び起こしているように思われる。〔…〕これに、これまた流行の保田與重郎を加えれば、日本における「ポストモダン以後」の正典〔ルビ:カノン〕は出揃ったというべきだろう。〔…〕/そこで意識されているのは、小林が、中野が、そして保田が遂行したと見なされている「大正的なもの」(大正デモクラシー?大正教養主義?)からの切断ということだろう。〔…〕/しかし、小林や中野、保田による大正的なものの切断は、漠然と信じられているように、それほど自明のことだろうか。】と問うすがは【〔…〕もっとも早く果敢に切断を遂行しえたのは、宮本顕治であった。そのような宮本顕治を隠蔽するにあたって強力に作用した文章に、吉本隆明の「転向論」(一九五九年)があるのは間違いがないだろう。これまた周知のように、吉本のこの記念碑的批評は、宮本の非転向と中野の苦渋に満ちた転向を比較して、前者に対する後者の優位を宣言するものだった。〔…〕/しかし、本当に中野は宮本に対して優位にあるのか。〔…〕/宮本が中野に対して思想的に優位だとすれば、それは、中野が共産党を「故郷」(村の家?)だと生涯信じていたのに対して、宮本には、その感覚が一切欠けているということだろう。中野の信奉者たちは一切語っていないが、最晩年の中野は宮本=共産党に対して、ひとを介して復党を申請しようとしていたという有力な証言が複数存在している(私的リサーチも含む)。これは、ヘルダーリンもどきの「帰郷」ではないのか。渡辺和靖の指摘によれば、日本浪漫派時代の保田與重郎は中野重治を高く評価していたというが、中野は死ぬまでロマン派だったわけである。これに対して、今にいたるまで共産党からの「除名」=故郷喪失を経験していない(というよりは、そのような事態を巧妙に避けた)宮本は、ロマン派的な感性とはハナから無縁なのだ。いうまでもなく、保田=中野的な「故郷喪失」は、和辻=芥川あkら引き継がれたものであり、それを「野蛮に」否定したのが、宮本だったのである。今日、大正的なものからの切断が真に問題化されねばならぬとすれば、そこで召還されるべきは、この宮本顕治のはずであり、それを隠蔽する時に肯定されているのは、実は、大正的な「敗北の文学」ではないのか。】と書いている。
12月30日 太田昌国「玄海灘の両岸で、いまだに彷徨う「骨」をめぐって」〔「派兵チェック」第156号(2004年12月15日発行)掲載〕。
12月29日 『現代思想』2005年1月号が“フリーターとは誰か”を特集、矢部史郎「労働者、有罪」。【失業という言葉には、為すべきことがないというイメージがつきまとうが、失業者はけして何もしないわけではない。失業者のほとんどは、働くために失業する。育児のために失業する人や、研究や学習のために失業する人が、どれだけの規模にのぼるか想像してみればよい。失業者には、他をおいてもやらなければならない仕事があり、その仕事のために賃労働の世界から退場するのである。失業者や非正規労働者が何もしていないように見えたり、遊んでいるように見えるのは、それは眼が腐っているからだ。/非正規労働者は、たんに雇用形態が非正規なのではない。ここははっきりと線引きしておきたいのだが、非正規労働者は労働者とは根本的に違う。もつべきは、非正規労働者を労働者の延長で捉える視点ではなくて、それぞれの労働者が労働時間外に何をしているか(していないか)を、その差異を捉える視点である。非正規労働者は、労働力の再生産過程に携わり、それを再審する者であり、端的にいって消費生活の形態が非正規なのだ。/逆にこう考えてみよう。非正規でない労働者、賃労働ばかりやっている「正規」のあるいは「典型」の労働者は、何をしているのか。社会を豊かにするためにどんな貢献をしているか。犠牲を払って矢面に立ってなにかをつくったことがあるか。真に社会的な信用を勝ち得たことがあるか。一般的に言って、労働者はまずたいてい話がつまらない。社会を知らず経験が貧しく、何も話すことがないか、逆に、自分がいかに経験豊富かということを言いたがる。なにを語るにしても視点がない。話を聞いていてなんの足しにもならないし、あまりの次元の低さに頭がクラクラする。自分のこともままならないのに、責任回避だけは長けていて、腐敗している。はっきり言って邪魔だ。おそらく家庭に戻っても邪魔な人間に違いない。そういう人間にはなりたくないし、積極的に排除したい。こうした動きを、労働者の非正規化運動と言ってもよいかもしれない。/必要なのは、労働者の非正規化を「正規化」へ押し戻すことではない。資本が労働者を排除しているのと同時に、労働者も労働者にうんざりしている。労働者は、生活を豊かにしたいという欲求を満たすことができないし、むしろ賃労働と豊かさの敵対的な関係が明白になってしまっている。豊かな生活のためには、まず労働者になることをできるだけ避けたい。】。
12月28日 『日経』04.12.28付(文化往来)に「阪神大震災の記憶伝える異色展覧会」。【災禍の記憶をいかに伝えるか。トヨタ財団の助成を受け、二年間にわたりユニークな共同研究を進めてきたグループが集大成となる展覧会を開くことになった。/グループの名は「記憶・歴史・表現」フォーラム。代表は国立歴史民俗博物館外来研究員の寺田匡宏氏で、詩人、美術館学芸員、研究者らがメンバーとなっている。東京大空襲、沖縄戦、水俣病、ユダヤ人虐殺の地を訪ね、記憶継承の仕方を調査し、阪神大震災の体験に役立てようと模索してきた。/「阪神大震災・記憶の〈分有〉のためのミュージアム構想」と題した展覧会(一月十四−二十三日、神戸市中央区のCAP HOUSE)では、五つの装置を並べる。巨大な郵便受けの棚にボランティア日誌など膨大な資料を展示し、震災時に胎児、乳児だった子供へのインタビューを映像化。当日停電で見られなかったニュース番組を複数のテレビに映して被災地と外部との情報の落差を示したり、詩を朗読したりする。/震災に関する展示といえば、揺れの衝撃を体験させる装置や防災を考えるパネルを並べるのが一般的。だが、この展覧会は記憶の伝達の仕方を構想する。寺田氏は「教訓やスローガン抜きに体験そのものとどう向き合うか、展示を通して考えたい」と話している。】。関連:いつかの、だれかに 阪神大震災・記憶の<分有>のためのミュージアム構想|展/「気鋭の肖像 記憶研究者・寺田匡宏」03.09.09神戸新聞。
12月26日 「精神的自由を考えるシンポジウム」2005年2月15日(火)18:30〜21:00(18:00開場)、弁護士会館2階講堂クレオ(東京都千代田区霞が関1-1-3、地下鉄霞ヶ関駅B1-b出口直結)、無料(予約不要・当日直接開場へお越し下さい。)、主催:日本弁護士連合会/関東弁護士会連合会/東京弁護士会/第一東京弁護士会/第二東京弁護士会、問い合せ先:東京都千代田区霞が関1-1-3日本弁護士連合会人権部人権第一課 TEL:03-3580-9505。【2005年11月に鳥取県で開催される第48回人権擁護大会(第1分科会【憲法】プレシンポ)では、「憲法」について取り上げることになりました。/このシンポジウムでの議論を深めるために、今後各地でプレシンポジウムなどが開催される予定ですが、この一環として、下記のとおり、精神的自由の問題を考えるシンポジウムを開催いたします。/昨今の精神的自由(内心の自由、表現の自由、思想・信条の自由など)をめぐる様々な問題から、憲法の意味・憲法は誰のためにあるのかということをご一緒に考えてみませんか。/□総合司会:田中早苗弁護士/(1)問題提起:樋口陽一氏(早稲田大学法学部教授)(2)『茶色の朝』の朗読(俳優・葛西和雄さん)(3)パネルディスカッション(吉岡忍氏(作家)、魚住昭氏(作家)、高橋哲哉氏(東京大学大学院総合文化研究科教授)、(コーディネーター)小池振一郎弁護士(4)まとめ:佐々木健次弁護士(日弁連人権擁護委員会委員長)】。
12月24日 「在日外国人無年金訴訟 「不平等正すべきだ」国への怒り相次ぐ /京都」04.12.22毎日、【「ただ不平等は正されるべきだと言っているだけ。なぜ在日は駄目なのか」。21日、京都地裁に在日コリアン高齢者の無年金訴訟が提起された。植民地支配で押し付けた国籍を戦後はく奪し、外国籍を理由に社会保障からも排除してきた日本の歴史。提訴後の会見では、かたくなに当事者たちの願いを拒み続ける国への怒りと、訴訟の支援を求める声が相次いだ。【中村一成】/午後3時半、横断幕を掲げた原告ら約50人が京都地裁に入り提訴。その後、京都弁護士会館で記者会見が開かれた。/在日無年金者の問題は、難民条約の批准(81年)時から国会でも取り上げられ、付帯決議もされたが、政府は問題を放置。「無年金障害者の『救済』」を掲げて今月成立した「特定障害者給付金法」の議論でも、在日高齢者は除外された。/会見では弁護団事務局長の伊山正和弁護士が、在日の訴えを立法裁量で退ける一方で日本人が原告の学生無年金訴訟では違憲判決が出る「二重基準」を指摘。「最低限の生活に必要な保障がないのはおかしいと言っているだけ。裁判所に分からせるためには支援が大切」などと訴えた。/続いて原告団長の玄順任(ヒョンスニム)さん(77)が植民地時代の苦難を証言。「日本人としてこき使われ、戦後は権利を奪われ、年金もなく苦しんでいる」と声を振り絞った。車椅子で出席した原告最高齢の鄭福芝(チョンボッチ)さん(86)も「この運動を盛り上げて戦って下さい」などと訴えた。/支援団体の共同代表、仲尾宏・京都造形芸術大教員は、旧植民地出身者の戦後補償訴訟のほとんどや、在日外国人障害者の無年金訴訟が立法裁量で切り捨てられている現実を指摘。「今回の裁判は絶対にゼロ回答で終わらせてはいけない」と呼びかけた。/同じく代表の田中宏・龍谷大教授は「旧植民地出身者は何の相談もなく日本政府に国籍を奪われた。なのに外国籍を理由に排除するのはおかしい。税金は平等に取りながら社会保障からは排除している」と批判。日韓アジア局長会議の席でも問題が取り上げられている事実を指摘し、「大阪訴訟で国側は裁判所に『日韓でこの課題は終わった』といっているが二枚舌。一方で裁判をしつつ、このルートを使い運動することも必要」と力説した。】。関連:『毎日新聞』連載「「排外」を問う:在日外国人無年金訴訟」、「1 「障害」辛く苦しいのは同じ /京都」.12.10/「2 置き去りにされた高齢者 /京都」.12.15/「3 何でうちらに与えられへんの /京都」.12.17/「4 生活に精いっぱい /京都」.12.18。
12月20日 承前、いがらしみきお『Sink 2』、巻末に中条省平「解説」。【〔…〕突然、人びとの平和な生活をかき乱すこの不気味なものの襲来に、作者・いがらしみきおの、現在の世界への根源的な異和感が投影されていることだけは強調しておきたい。それは、自分の意識を絶対として疑わない近代以降の人間の傲慢さと、その人間が生みだした物質文明へのいいようのない苛立ちである。/人間の理解を超えた『Sink』の恐怖とは、そもそも自分を超えたものを理解しようとしない人間の傲慢さと鈍感さ、畏怖の念の欠如にむけられているといっていい。/それゆえ、異形の者と化した自分の息子に、山下が、「この化け物め きさまは狂ってるぞ」というとき、息子はこう反論する。/「化け物はおまえらだ 自分たちでさえ信じていないウソでいつまでもだまし合って それで? おまえら幸せになれたかよ」/これは、いがらしみきおが人類全体にむかって問いかけている問いでもあるだろう。/このとき、『Sink』は、山下家という小さな世界で起こった特殊な現象ではなく、恐るべき勢いで進行する世界の病を描く普遍的な寓話となっている。/たとえば、山下の異形の息子のように、ある日、「この世に生まれてきたけれど この世界で生きて行けない」ことに気づいてしまった人間はいったいどうすればいいのか? ここでは、ひきこもりに集約されるような個人の心の危機が問われている。/あるいは、林がいうように、「国家だの社会だの家族だの ありもしないレールを敷いて そのレールの上を行くしか幸せなどないようなウソをつき合って」、ほんとうに幸せを実感することがあったか? ここでは、共同幻想という人間意識の本質が問われている。/そして、これらの問いは、物を作り、物を買い、物を捨て、物を増やすことに狂奔し、そうして自分の命のみならず、ほかの生物の命と世界そのものの命を破壊してきた人間、すなわち、私たち自身に向けられている。/いがらしみきおは恐ろしい場所にたどりついたものだ。】。
12月18日 目取真俊「虹の鳥」〔『小説トリッパー』2004年冬季号、朝日新聞社、掲載〕。
12月17日 ▼「官舎に『反対ビラ』無罪 憲法で表現活動保障」.12.17東京、【東京都立川市の防衛庁宿舎で自衛隊のイラク派遣反対のビラを配ったとして、住居侵入罪に問われた市民団体メンバー三人の判決公判が十六日、東京地裁八王子支部であり、長谷川憲一裁判長は「ビラ配りは憲法で保障された政治的表現活動であり、立ち入りによるプライバシー侵害の程度は極めて軽微で刑事罰に処するに値する違法性はない」と、無罪(求刑懲役六月)を言い渡した。/無罪となったのは「立川自衛隊監視テント村」のメンバー大洞俊之さん(47)、大西章寛さん(31)、高田幸美さん(31)。/判決で長谷川裁判長は「ビラの内容は暴力や破壊活動を志向する危険思想ではなく、一つの政治的意見。ビラを届けることでテント村の見解を自衛官らに直接伝えるという動機自体は正当」と指摘。「正式な抗議や警告もなく、いきなり摘発して刑事責任を問うことは憲法の趣旨に照らして疑問」と述べた。/ビラ配りの行為自体は「居住者や管理者の意思に反する立ち入りは、特段の事情がない限り侵入と評価すべきで、住居の平穏を害する」と認定。しかし、ビラ配りが月一回、三十分程度の滞在で、階段や踊り場までの立ち入りだった点などから「居住者の生活にほとんど実害をもたらさない」として、刑事罰に値する違法性はない、と判断した。/弁護側は「政治的思想の抑制が目的で、公訴権の乱用にあたる」と主張したが、この点については「少なからぬ居住者が他の商業宣伝ビラに対するものとは異なる不快感を抱いており、こうした感情に着目すれば検察官の訴追裁量権の逸脱とまではいえない」と退けた。/判決によると、三人は一月十七日午前十一時から正午ごろ「自衛隊のイラク派兵反対」などと書かれたビラを配るため、防衛庁宿舎の階段や通路に侵入したとして、二月二十七日に警視庁に逮捕され、起訴。七十五日間拘置後に保釈された。/国際人権擁護団体「アムネスティ・インターナショナル」が、思想信条を理由に拘禁された日本初の「良心の囚人」に認定した。】。「イラク派遣反対ビラ:「頑張ってきてよかった」3被告無罪」.12.17毎日。関連:立川・反戦ビラ弾圧救援会 /立川自衛隊監視テント村 /BORAのホームページ(被告・大洞さんの個人サイト)。▼「韓国大統領:「遺骨別人、日本の衝撃理解」 毎日新聞会見」.12.17毎日。
12月16日 いがらしみきお『Sink 2』竹書房(税込1600円、ISBN:4-8124-6085-9)が12月18日発売! 関連:『Sink』オフィシャルサイト。
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